阿良々木暦役 神谷浩史インタビュー
まずは、原作の「終物語」をお読みになったときの感想をお聞かせください。
- 神谷
- 『終物語』はこれまでの<物語>シリーズとは違う切り口の内容で。ミステリーのような、読者に対して問題を投げかける方式で描かれています。はたしてこれは<物語>シリーズの核たる怪異がらみの話なのか? と。そういう疑問も含めておもしろいストーリーになっています。僕は『別冊少年マガジン』に掲載された『終物語』の第一話を読ませていただいたんですが、急に番外編みたいな感じになっていたので、これで本当に「終物語」というタイトルがつく、<物語>シリーズの終わりを締める作品になるのかなと気になりましたね。
『終物語』では阿良々木暦の過去や意外な一面が描かれています。暦とお付き合いも長い神谷さんは、その新たな一面をどのように受け止めていましたか。
- 神谷
- これまでの<物語>シリーズでは、暦自身についての説明はほとんど言及されてきませんでした。今回は暦自身も「まったく覚えていない過去」が忍野扇によって明かされる、とても不思議な話になっています。おそらく……過去の設定なんて最初はなかったんだと思うんですよ(笑)。忍野扇という登場人物によって後天的に過去が肉付けされていく。物語の成立にこんなやり方があるのか! と。暦本人も「覚えていない過去」を改ざんすることで、僕にとっては新鮮な気持ちで過去に向かい合える。とてもありがたい過去の描き方だなと思っています。
謎を導く忍野扇というキャラクターに、どんな印象を感じましたか。
- 神谷
- 彼女自身がすごくあいまいな存在なんです。そもそも「忍野メメの姪」という経歴は彼女が言い始めていることなので。それに対して暦は何の疑問も抱かないんです。何を考えているのかわからない扇ちゃんに言われると、なぜかすべてを納得してしまう暦。この不自然さこそが「終物語」の不気味な部分で。そこに読者や視聴者は違和感をもつのでしょうけど、暦を演じる側としては、疑問を持たないようにするしかないんだろうなと。
新ヒロインの老倉育をどのように受け止めていますか。
- 神谷
- 戦場ヶ原ひたぎと初めて会ったときと同じような印象を受けるんじゃないかと思います。戦場ヶ原はツンドラと評されたデレがない、ツンしかない女の子。老倉とは見た目の印象も似ていますし、声の響き、しゃべっている内容も硬質で。視聴者のみなさんは初期の戦場ヶ原を思い出すんじゃないかなと思っています。ただし、そういう目で見ていると、最終的にはすごく痛い目にあう話……かもしれません。
<物語>シリーズは少人数のキャストによる濃密な会話劇が特徴ですが、今回の収録はいかがでしたか。
- 神谷
- 必死ですよね。シリーズものゆえに前回よりも良いものを、前回よりも面白いものを、という気迫が西尾先生の原作からも感じられるし、それを感じ取ったアニメのスタッフも必死になってより新しいものを作ってくれて。それに追いつかなきゃいけないというハードルが上がっているなと思うんです。収録日までは念入りに台本チェックをして驚くほどの時間と手間をかけているんですが、いざスタジオに入ってみると物凄い集中して臨むので、あっけないくらい短時間で終わったりするんですよ。毎回、アフレコ前やアフレコ中は大変だって思うのですが、終わってみるとそーでもないなって。自分が大変だと思っていたのは勘違いだったのかと。もちろん完成した音声を聴くとちゃんと成立しているし……毎回なんだか反省させられる現場です。
<物語>シリーズはこれまでに62話制作されました。再び新作をつくるお気持ちはいかがですか。
- 神谷
- ここまでシリーズが続いてくると、年々ハードルが高くなっているのを感じます。それは僕ならずともスタッフ全員が感じていることでもあります。その状況を打開するために西尾維新先生が打ち出した方法が「ミステリー仕立て」なんだと思います。ここから<物語>シリーズをご覧になる方も「ミステリーもの」として楽しめると思います。
第1話は1時間SP放送で「おうぎフォーミュラ」をお届けすることになりました。
- 神谷
- なるほど! ミステリーの結末までを最初の放送で楽しめるというわけですね。
その「おうぎフォーミュラ」はかなり独特な演出がされていると伺ったのですが……。神谷さんはこの演出についてどう思いましたか。
- 神谷
- 原作は「暦が所属していたクラスメイト全員を描く」というとんでもない内容なんです。原作を読んだとき、これはどうやって映像化するんだろうなと思っていたんですけど、まあ……新房昭之総監督&板村智幸監督&シャフトの手にかかるとこうなるのかと。映像表現としては相当新しいものになっていると思います。この原作をこんな解釈をして、これほどの映像にするなんて。いわゆる「この教室の中にひとり犯人がいます」という、ひとつのミステリーものらしい構造を、それとはまったく違った方法で、なおかつ1時間ものに収まるように描くことは……とてつもなくハードルの高いことだと思うので。その映像だけでも、観る価値はあると思います。
<物語>シリーズはこれまでも様々な映像表現に挑戦してきたシリーズですが、次もまた新たな表現に挑戦しているんですね。最後に神谷さんから、ファンのみなさんへ本作の楽しみ方をご指南ください。
- 神谷
- もし<物語>シリーズに興味がありながらも、まだ原作やアニメに触れたことのない方がいたら、ぜひ今回から見ていただきたいです。最低限の前情報としては「今回はミステリー」「クラスメイト全員の名前が出てきて、それぞれが容疑者」「その中から犯人を当てなきゃいけない」。これだけを知っていれば楽しめますし、映像を観たあとに「じゃあ、原作はどうなっていたの?」と原作が気になると思います。ぜひ、原作もアニメも楽しみにしてください。