スペシャル
『化物語』スペシャルインタビュー シリーズディレクター・尾石達也さんに訊く
尾石達也:「化物語」シリーズディレクター。
「ひだまりスケッチ(プロダクション・ディレクター)」「まりあ†ほりっく(オープニングディレクター)」等、様々な形で新房監督作品へ参加。
――いよいよ「するがモンキー」もクライマックスを迎えましたが、ここまでを振り返っての感想を教えて下さい。
- 尾石
- 非常にぎゅっと濃縮された毎日を過ごしているという感じですね。
シリーズディレクターという自分自身初の役割ですが、今は、このシーンはこうしたいっていう思いが明確に出てきています。例えば、ひたぎの告白シーンは、最初のコンテではもっとさらっと描かれていたんです。それに対して自分は、もっとカットを積みたい、告白する前にもっとタメが欲しいと思ったので、新房監督と話して直させてもらいました。それから、「化物語」を作りながら常々思うのが、西尾さんの原作が持つ力の大きさと、セリフの素晴らしさですね。また、それを演じられるキャストの皆さんの力にも助けられてます。好きなセリフだと、その言葉を聴きたくて巻き戻して反芻したりしていますね(笑)。
――新房監督とはどのような話をされていますか?
- 尾石
- 印象的だったのは、3話で、新房監督と顔を突き合わせて、絵コンテを最初のカットからチェックした事です。そういったやり方を新房監督としたのは初めてで、すごく楽しかったですし、納得できるものが出来ました。
――「まよいマイマイ」では、円や渦巻きを使った演出が印象的でしたが、それも尾石さんと新房監督で話されたんですか?
- 尾石
- そうです。「まよいマイマイ」は蝸牛の話なので、渦巻きをキーワードにしようと、新房監督と話しているうちに決まっていきました。あと、3話から瞳のアップというのがポイントとして出てきますが、そこで、目がぐるぐるする感じにしましょうと提案しました。
――瞳のアップは1カット1カット、全て新規に描かれているそうですね。
- 尾石
- はい。目力の部分だったり、同じキャラの瞳のアップであってもシチュエーションが違いますし、全体のテンポを作るうえでも一枚一枚描いてもらっています。ただ、瞳のアップが多用できるのは、渡辺明夫さんの絵の力があればこそですね。
――「ひたぎクラブ」はシリアス、「まよいマイマイ」はギャグ的表現と特徴的な演出がされていますが、「するがモンキー」の演出について教えて下さい。
- 尾石
- 「するがモンキー」に関しては、完全に任せていただいている感じで、自分の持ち味が色濃く出ていると思います。
――6話の羽川が電話で話すシーンは非常に印象的でした。
- 尾石
- 自分の中では、羽川には自分の部屋が無いんじゃないかって思っていて、だったら家に帰りたくないから外で話してる方が合ってるんじゃないかなと思った瞬間に、あのシーンが
イメージできました。
――暦のセリフが伏字でしたが、こちらはどういう意図だったんですか?
- 尾石
- あのシーンでは、観ている方に、もしかしたら羽川が一人芝居をしてるのかと思わせたいと考えていました。羽川の孤独さを強調すべきだと思ったんです。だからわざと携帯に「電源OFF」と表示させたり、会話の途中なのに通話の終了音を入れたりしました。
その演出意図に対して、暦のセリフ部分をどうするべきかは迷いました。ただ、全く無いのもわかりづらいかなと重い、最終的に伏字での字幕を入れました。
――7話・8話についてはいかがですか?
- 尾石
- 7話の後半に駿河と暦の掛け合いがありますが、そこは、どんどんネタを繰り返しつつ、ボケと突っ込みが入り乱れてすごい加速していく漫才をイメージしました。
8話で、駿河と暦が戦う部屋は、原作だと学習塾の2階ですが、暗くて狭いところで戦うと絵になりにくいので、地下3階の空間的に広い場所に変更させていただきました。そこでのバトルでは、暦のお腹を蹴破るんですよ、駿河が。それで、飛び出た腸を掴んで、そのまま、ぶーんって振り回したりします。血も赤だけでなく、カットごとに色を変えて、全部、黄緑とか黄色とかピンクとかペンキをぶちまけたような感じで、かなりショッキングなシーンになる予定です。(※このインタビューは、第8話の制作中に収録しました)
「化物語」では、痛いシーンは、目を背けたくなるくらい痛々しく描きたいと思っています。6話の駿河に襲われるシーンもエグイぐらいに描いてほしいとお願いしました。ただ、同時に絵としてきれいに描きたいなという思いもあって、そのバランスに気を付けています。
――エピソードごとに変わるオープニングについてお聞かせ下さい。
- 尾石
- まず、ひたぎクラブですが、「staple stable」が爽やかなイメージなので、それを感じさせる映像を作りたかったんです。それである日、早朝の井荻で空を見上げながら歩いていたら、ホッチキスがカチカチと飛んでるイメージが浮かんで来て、これだ!って思って、そのイメージを膨らましていきました。巨大化したひたぎは、本編ではひたぎが軽い事と歌詞の「重さじゃ量れない こんな想い」とをかけています。
――「まよいマイマイ」のオープニングは、全て板垣伸さんがディレクションされたんですか?
- 尾石
- そうですね。自分から板垣さんにお願いしたのは、登場する全員を真宵にして欲しいという事と、母親は出さないでほしいという事だけです。結果、出来上がったオープニングは、すごく可愛らしくて、楽しくて、素晴らしいです。それが放送では一回しか流れないって(笑)。
「するがモンキー」のオープニングではかなりCGを使っています。ベタですが、百合の花を出しまして、それをCGを使って描いています。そして「するがモンキー」のオープニングも一回しか流れません(笑)。
――ウエダハジメ先生によるエンディングについてはいかがですか?
- 尾石
- 昔からウエダさんの絵がすごく好きなんですが、エンディングをどうしようかと考えてた頃、本屋でウエダさんの絵を見て、ウエダさんが描かれるひたぎが見たいと思ったんです。いきなりエンディング制作の依頼っていうのは、かなり無茶なお願いでしたが、ウエダさんも映像作りに興味をお持ちだったらしく、とんとん拍子に話がまとまりました。
具体的な制作に関しては、最初の打ち合わせの時に、ほぼ現在のエンディングと変わらないイメージの絵を描いて来られたので、そのイメージを自分がまとめていった感じです。自分も意見を出しましたが、画面のセンスは背景に至るまで100%ウエダさんの世界ですので、自分はウエダさんのお手伝いをさせていただいたという感じですね。
――これから放送される「なでこスネイク」「つばさキャット」の見所について教えて下さい。
- 尾石
- 「なでこスネイク」はブルマやスク水のシーンを強調して描きたいです。
「つばさキャット」では、羽川を持ち上げたいということに尽きますね。
――羽川には、幸せになって欲しいですよね。
- 尾石
- そうですね。TVのオンエアエピソード(12話)まででは、羽川がまだまだ立ってないような気がするので、それを後半3話で見せることができたらなと考えています。
――最後に、『化物語』のファンに向けて、ひと言お願いします。
- 尾石
- スタッフ一丸となって、とにかくいろんな手を考えて、時間の許す限り仕掛けていくので、ずっと最後まで観て欲しいですね。自分は、皆さんが喜んでくれたり、楽しんでくれることがモチベーションなので、これからも応援よろしくお願いします。
――ありがとうございました。